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ゾンビホラー小説「ボビーとマスター」

日曜の生放送で決めたお話を書きました。
夜中のテンションってこわい。





普段使っているAviutlではなく紙芝居クリエーターってツールを使ったんですが
ちょっと文字表示のウェイトが難ありかもしれません。
切り替わるのが早かったり、文字の表示が長すぎたり。


ってことで追記に本文をまる載せしちょきます。
 日本最大の不夜城、歌舞伎町。
 その歌舞伎町がゾンビで溢れかえった事件は記憶に新しい。
 暴力団組員が極秘で持ち込んだ細菌兵器や、新種の性病といった噂も流れたがすぐにそれらの噂は消え失せた。
 当事者である歌舞伎町の住人がゾンビになったせいだ。
 噂を流すものも噂を聞くものも、歌舞伎町にはいなくなってしまった。
 ただただ今まで通りの生活を続けたいと願う一部の酔狂人が、わずかに生き残っているだけだ。
 そんな酔狂人の一人が経営するバーにボビー・オロゴンは訪れた。
 日付が変わる頃、這い入るようにドアをくぐる。カラン、と客の来店を告げるベルが鳴りボビーは一瞬呼吸が止まった。表を闊歩する腐ったヤツらに気づかれるかと思ったからだ。
 息を潜めて耳を澄ませる。が、ヤツらの足音がこちらへと向かう様子はなかった。
 ほっと息をつきボビーは店内を見回した。
 だだっ広く、間取りでいえば5LDKほどはあるだろうか。
 目につく物は正面にある脂が浮いた木調のカウンターと、錆が浮かぶ檻だ。
 檻??それらがうずたかく積まれた様は、まるで養豚場のようだった。
 視線を檻から正面へと戻す。
 木調のカウンターをはさんで男がいた。初老と呼んで差し支えのない年齢だろう。
 整髪料を惜しまず使っているその髪は、オールバックにまとめられている。
 その顎には産毛すら生えていないようだが、唇の上にはちょこんとまとめられた髭があった。こだわりを感じさせるそれは彼のトレードマークだろうか。
 紳士的な風貌が評判の男だと聞いている。が、その裏の顔はあまり知られていないようだ。
 ボビーはその“裏の顔”を頼りにここへ足を運んでいた。
 そうでなければ誰が好き好んで、腐った死体がふらついている歌舞伎町を訪れるものか。
 ボビーはすっとカウンターの前に移動すると、並べられたスツールへと腰掛けた。
 目の前にいる男はボビーには一瞥もくれず、もくもくとグラスを拭いている。
 五分ほど、ただ男を見つめるだけで動けずにいた。
 先に口を開いたのはボビーだった。
 一言目は何かを言おうとして躊躇してしまった。しかし、すぐに意を決して切り出す。
「マスタァ、オラアニ船ノ作リ方オシエテエヨ!」
 ボビーはきいきい声でそう言った。
 男の裏の顔??それは造船のノウハウを知る造船業講習者であった。
 男はグラスを拭く腕を止め、ぎろりとボビーを睨んだ。見つめられただけで自殺願望を抱いてしまいそうな陰鬱な瞳とボビーの目線が交錯する。
 ゆっくりと??男が口を開いた。
「いいわよおん」
 初老の男??オカマバーのマスターは朗らかにそう言うと、グラスを背後のカウンターへと戻した。

「そう。そうよお。あなたなかなか筋がいいわ!」
「ソウカイ? オラア手先ダケハ丈夫ダッテヨクイワレタンダア!」
「たぶんそれは丈夫じゃなくて器用って言いたかったのね。ほら、これでもう完成よお」
 マスターに半分以上手伝ってもらったが、ボビーはついに船を完成させた。
 土産物屋によくあるボトル入りのミニチュア船だ。
 本物の造船を一人で行える職人など、日本にはそうそういない。
「ヤッタ! ヤッタヨウ! コレデ国ニ帰ッテ成金ドモニ売リ払エバ、オラアモ成金ノ仲間入リダアヨウ!」
「ボトルシップにいくら出す気なのかしら、その成金さんは」
 ともかく、とマスターは付け加える。
「完成記念に何か食べない? 料金はあなた持ちだけれど」
 マスターは造船業の講習費だけではなく、しっかりと飯代もいただくつもりなのか。
 ボビーは狼狽の色を見せた。そこまでの出費は考えていなかったのだ。
 ふと表を見やる。いつのまに寄ってきたのか一人の浮浪者らしき人物が店の正面に立っていた。どこかの流れ者だろうか。
 いや、ちがうようだ。その人物の来訪と共に、ボビーの鼻をついた匂い。
 それは腐敗臭だった。ボビーは加齢臭と腐敗臭をよく嗅ぎ間違えたが、歌舞伎町についてからはその差は明白だった。臭いのがいっぱいいるからだ。
「マスタア、チョット待ツテテネ!」
 ボビーはそう言い残すと、一人店の正面へと飛び出した。
 カランとベルが響く。ちょっと、と呼び止めるマスターの声が耳に残った。
 正面にいた人物とボビーは対峙した。
 やはり、ゾンビだ。ゾンビはチーズ色をした前歯を見せびらかすように口を開いた。噛み付きたかったのか嗤っていたのか、ボビーにはわからない。
 ゾンビの鈍い動作が形を成す前にボビーは動いていた。
「シャオゥ!」
 腰だめに腕を構える。いや、構え終えていた。
 叫ぶと同時にボビーはゾンビの身体の一部をもぎ取っていたのだ。
 彼が来日してから最初に読んだ漫画本にその技法はあった。
 極限にまで鍛え上げられた指先は、素手で人体を千切れる程の技量を持つに至る。
 ボビーが先ほどマスターに聞かせた自賛の話は間違っていなかった。
 ボビーは手先が丈夫なのだ。
 平時には埼京線の車内でその技術は役立っていた。サイフがすりやすいためだ。
 ゾンビからもぎ取ったそれを見下ろすと、ボビーは店内へと踵を返した。
 カランとベルが鳴り、水風船を地面に叩きつけたような音が背後から聞こえた。
 先のゾンビが悶絶し、昏倒したのだろう。
 その音には気もとめずボビーは叫んだ。
「アイリィ!」
「ちょっと。あたしの源氏名そんなんじゃないわよ? それよりどうしたのよ、急に飛び出したりなんかして」
「マスタア! コレ見テヨ、コレ! コレデ料理コサエレバタダヨ、タダ!」
 そう言ってボビーは手の中で丸くなっている肉塊をマスターに差し出した。
「あら、何かしらこれ。ぱっと見た感じだと男性器に見えるんだけど」
「ソレ、ナマコ!」
「ええ、なまこ? でもどう見ても千切れたちんち??」
「ナマコォオ!」
「ひょっとしてボビー君も私たちの同胞になるために自分のナニを……!」
「ナマコダッテ言ッテンダロォガヨオ!」
「……そう、なまこなのね。もう油は落としちゃったから、簡単な物しかできないけれど」
「イイヨイイヨ、アリガトウマスタア」
 ボビーはマスターに礼を言い、先ほどまで腰掛けていたスツールへと座り直した。
 壁に掛かった時計を見上げる。三時四十二分、すでに明け方近い時刻になっていた。
 力作であるボトルシップに視線を移すと、マスターが小皿に盛られた肉片を差し出してきた。
「そのままワサビ醤油というのも乙なんだけれど、今回は酢の物にしてみたの。ナマコ酢よお。遠慮せずに召し上がって!」
 ボビーは小皿の上のちぢんだ肉片を見て、当分なまこは喉を通らないだろうと思った。
 ひょっとすると用を足すたびにこの肉片を思い出して、一生なまこは無理かもしれない。
「イヤア、ヤッパリ、ナントイウカ、ソノ」
 しどろもどろになりながらもボビーは喋り続けた。なんとか食べずに済ます方法を考えねば。
「なによお、せっかく作ってあげたんだからささーっと食べちゃいなさいよお」
 マスターが強引に小皿をボビーの唇へと押しつけてくる。
 瞬間、ガララランとベルが異常な音を立てた。入り口からいくつもの影が店内に雪崩れ込んできたのだ。
 ゾンビの群れだ。
 ボビーは咄嗟にマスターの小皿をはね除け、その腕を掴んだ。
「逃ゲナキャ! マスタア!」
 マスターの腕を引っ張るように店の裏口へと走る。
 裏路地を進めば公園へとたどり着けるはずだ。
「ちょっと、そのグラス高いんだから! 触んじゃないわよお!」
 マスターの叫び声を聞きながら、ボビーは裏路地へと飛び出した。

 暗い部屋の中でボビーとマスターは抱き合うように固まっていた。
 先ほどまで感じていた腐敗臭は糞尿臭へと変わっている。
 彼らが逃げ込んだ先は公園に設置されている簡易トイレの中だった。
 狭い個室のうえに、マスターが先ほどから太ももの付け根をいやらしい手つきで撫でてくるため、たまったものではない。
「マスタア、ソコダメ、ダメダヨオ」
「あらぁ、ごめんなさいね。狭っくるしいからついつい当たっちゃうのよお」
「ムオオン、キモチワルイヨオ」
「ええ、気持ちが悪いの? 大変、じゃあすぐに気持ちよくしてあげないと!」
 マスターは言うが早いかボビーの下腹部を円を描くように撫で回した。
「オ、オフゥ……」
 ボビーは言いしれぬ高揚感に包まれた。が、このままではゾンビよりも穢らわしい汚点が人生に残ってしまう。
「トニカクココカラデナイト!」
 ボビーはマスターの手を振り切るようにトイレのドアを開け、外へ躍り出た。
 鼻腔に寄ってくる香りが糞尿臭から腐敗臭へと変わる。
 公園はゾンビの大群で埋め尽くされていた。いつの間にこれだけ集まってきたのか見当もつかない。
 ボビーは走る速度を緩め、そのまま踵を返した。
 マスターと一緒にトイレに立てこもるためではない。
 簡易トイレの屋根へと上るためだ。幸いにも屋根の縁はボビーが跳べばぎりぎり届く高さにあった。
 腰をかがめ脚の関節を意識する。
 ふんっ、と力のこもった息をはき、ボビーは跳び上がった。
 屋根の縁へと指先がかかる。指の第一関節が軽くひっかかる程度だったが、ボビーの指力の前ではそれで十分だった。
 懸垂をするように体を持ち上げていく。蜥蜴のように屋根にへばりつく格好になってしまったが、ボビーは屋根へと登り終えた。
「ちょっとお! あたしもあたしも!」
 簡易トイレから出てきたマスターが叫ぶ。
 マスターの背後にはゾンビが数体歩み寄っていた。いくらヤツらが鈍重でもマスターの位置まで来るのに、そう時間はかからないだろう。
 ボビーは慌ててマスターへと手をさしのべた。付き合いは浅いというよりも無いといった方が正しい人間だが、目の前で食われてしまっては寝覚めが悪い。
 マスターの手を掴む。が、なぜかマスターはボビーの手を振り払い、指と指を絡ませるようにあらためてボビーの手をとった。
 そこは重要なのだろうか。ボビーは疑問に思いつつもマスターの体を引っ張り上げる。
 途中、マスターが手の甲をさするように撫でてきたため、自分の寝覚めが最悪なものになっても構わないので、このおかまを振り落としてやろうかとボビーは本気で考えた。
 マスターが屋根の上で立ち上がった。頑張ったのはボビーなのだが、何故かマスターの方が息が上がっている。
 吐息がお互いに届き合う状況なので、暑苦しさは申し分ない。
「ああっ! 見て!」
 素っ頓狂な声を上げ、マスターがボビーの右後方を指さした。
 爪先に飾り付けられた雄記号同士が絡み合うデザインのシールは見なかったことにして、ボビーは視線をマスターの指の向こうへと向けた。
 ゾンビが数カ所ごとに分かれて何かに群がっている。
 鳴き声、怒声、呻き声、それらに混じりゾンビの咆吼が渦巻いていた。
 公園にゾンビが集まってきた理由は、他に無事な人間がいないからだろうか。
 このままでは足場になっている簡易トイレもいつかは押し倒されてしまう。
「マ、マスタア! 逃ゲルヨ、違ウ場所ニ!」
「そ、そうね! あっ、あれとか使えるんじゃない?」
 そう言うとマスターはボビーの左側を指さした。
 そちらの指にはあまり見かけない位置に指ダコができている。ボビーはそれも無視して左側へと首をひねった。
 そこにバイクがあった。放置されているため、まともに動くかどうかは不安ではある。しかしあれが動けばこの歌舞伎町から出ることも可能だろう。
「オッケエ、行コウ行コウ!」
 ボビーはゾンビがあまり居ない位置を探し、そこへ飛び降りた。マスターもすぐ後方へ着地する。
 ゾンビは二人が離れたことに気づかず、まだ簡易トイレを目指して集まっていた。
「走って、早く早く!」
 後ろに居たはずのマスターがボビーに先んじて走り出していた。慌ててボビーも後を追う。
 マスターがバイクへと跨がる。エンジンは大丈夫だろうか。
「いやあ! このバイク、鍵が無いわぁ!」
 まともに動くかどうか以前の問題に直面してしまった。
「マスタア、ホラ、アレヤッテ、アレ! コードトコードヲ絡マセテブゥゥンッテ!」
「あんなの映画や漫画だけの話に決まってんでしょお!」
 そうなのか。ボビーは愕然とした。自分が信じたものはでたらめだったというのか。
 自分が今まで鍛えてきた指は何だったのか。漫画を信じて馬鹿を見てしまったのか。
 膝から力が抜けてしまい、ボビーは尻餅をつくように倒れ込んだ。
 バイクの前輪にしがみつき、何とか体勢を支える。
 いや。
 映画や漫画が嘘をつくはずがない。新聞やニュースなど取るに足らず、それらこそが真の情報を彼に伝える世界一の情報源なのだ。
「ソンナコト……」
 ボビーは呟くと両手を前輪からはなし、高く振り上げた。
「ヤッテカライエヨオ!」
 両手を貫手の形にして、マスターの脇からバイクのスロットル部分に突き入れた。
 プスン、と音を立てて火花が散る。
 ??が、それだけだ。
 バイクは微動だにしない。それどころか彼の大声を聞きつけて、ゾンビ達が彼らの方へと歩み始めた。
 アア、ソウカ。
 映画ガ正シイッテコトハ、ゾンビ相手ニコウナルノモ正シイ展開ナンダネ。
 ボビーの情報源はやはり正しかったのだ。ゾンビに襲われている状況で動作が不確定な乗り物に頼ってはいけない。大抵それらはエンストを起こすか中にゾンビが潜んでいるのだから。
 だがボビーは知っている。
 それならば主人公には何かしらの幸運が味方につくはずだと。
 ゾンビ映画において、主人公は幸運でなければならない。
 もちろん例外のタイトルはいくつもあるが、ボビーはそれらを頭の中から消すことにした。
 突然、ぶるぅぅん、と空気が震える。
「あ、ついた! ついたわよ!」
 バイクのエンジン音だった。原理はよくわからない。ただ絡み合うコードの中に腕を突っ込んだだけなのに。
 ともかくバイクは動いた。ボビーにはその結果だけで十分だった。
 指先を鍛えていてよかった。やはり漫画も正しかったのだ。
「アリガトオ! ナムトスイチヨケーン!」
 ボビーは叫ぶとバイクの後部へと跨がった。マスターの腰にしがみつく。
「飛ばすわよお!」
 指が白むほど力を込めてマスターがハンドルを捻った。
 前輪が持ち上がるようにしてバイクは走り出した。思わずマスターの腰を抱きしめそうになる。が、やめておいた。
 人生の汚点となる気がしたからだ。
 二人を乗せたバイクは公園を飛び出し、歌舞伎町の境界線を目指して走り出した。

 マスターがバイクのブレーキを軽く握る。
 緩やかに速度を落とし、やがてバイクは停止した。
 バイクが軽く傾く。そのまま倒れてしまわないようにボビーは片足で踏ん張った。
 順調に進んでいたはずのバイクをなぜ停止させたのか。
 前方に障害物があったからだ。
「ココモカ……」
 障害物を見上げボビーが呟く。
 それは路面一杯にうずたかく積まれたゾンビの亡骸だった。
 彼らがこの肉壁にあたるのは四回目だ。歌舞伎町から脱出する道筋は全てゾンビの壁で埋まっているのか。ボビーは胸中で毒を吐いた。これだけのゾンビを仕留める技量があるのなら、歌舞伎町など簡単に制圧できるだろうに。何故逃げ出すものを虐げるような真似をするのか。
 ボビーはバイクから降りると、肉壁へと近づいた。急に支えがなくなったバイクが背後で倒れ、マスターが怒声をあげたが聞こえないふりをする。
 ボビーはおもむろにゾンビがはいているジーンズのポケットに手を突っ込んだ。
 そのまま中を探る。柔らかいものを押しつぶしたような感触とともに、ジーンズ生地がじっとりと湿った。体液か腐汁か。どちらにせよ手を洗わねば。ひょっとしたらマスターに頼めば手をなめてくれるだろうか。しゃぶるように。
 ボビーは自分の考えで喉の奥が酸っぱくなった。なんとか吐き気を堪えると指先に硬い物が触れる。ボビーはそれを指先で挟むようにつかみ、手を引き抜いた。
「何かあったの?」
 マスターが肩からのぞき込むように声をかけてきた。
 手を開き、回収したものをマスターにも見せた。
 それは鍵だった。車やバイクの鍵ではなさそうだ。持ち主の自宅の鍵だろうか。
 鍵を裏返すと、持ち手の部分に名前が書いてあった。
『モノホン銃器店』
 銃器店の鍵らしい。それも恐らく、本物の銃器の。
「モノホンだものね!」
 マスターの言うとおりだ。モノホンと書かれているのならモノホンなのだろう。
 銃が手に入るのは大歓迎だ。いくら彼の指技が強力だといってもゾンビには触れたくない。遠距離から攻撃できるに超したことはなかった。
 ボビーは考え込むように目を伏せると、不意にその鍵を飲み込んだ。
「何してんのっ!?」
 何故だろう。わからない。飲み込まなければいけない気がしたのだ。
 そう、この鍵が重要だからだ。隣にいるおかまよりも大事なこの鍵を、万が一にも落とすわけにはいかない。ボビーは己の胃の中で鍵を保管することにした。
「大丈夫ヨオ! 取リ出ス時ハマスタアノコト考エレバスグニゲロルカラ!」
「まるであたしのことを考えると吐き気がするみたいな言い方ね!」
 大正解だった。クイズの正解音を頭の中で思い浮かべる。
 しかし、彼の頭に流れてきた音はクイズの正解音ではなかった。
 これは、この音は。
 ボビーは嘔吐くように口を押さえ、その場に座り込んだ。
 頬を水滴が伝う。小刻みに震える肩はその動きを止めそうにない。
「ど、どうしたの?」
 マスターがボビーの横に座り込んだ。鍵を飲み込んで気分が悪くなったと思ったのだろうか。ボビーの背中をさすってくる。さする動きがちくちくとするうえに非常に不快だ。
「ダ、ダッテ、オラアノ、オラアノ……」
 ボビーが聞いた音。それはレトロ調のBGMだった。
 ドラクエの冒険の書が消える音。ボビーが世界で二番目に聞きたくない音だ。ちなみに一番目はおかまが喘ぐ声だ。
「ハ、ハヤク新シイ冒険ヲ始メナイト! ガングロ天使ガブチギレチャウヨ!」
 ボビーは尻ポケットに収まっている初代DSを取り出した。
 そして、それはボビーがDSの電源スイッチを押し込むと同時におこった。
 目の前でうずたかく積まれていた肉塊が、二人に向かって雪崩れ込んできたのだ。
「いやああぁぁ!」
「イヤアアァァ!」
 人が大声で叫ぶには多量の酸素が必要だ。二人は瞬時にそれを吸い込み、吐き出した。
 慌てて後方へ駆け出す。二人の後を追うようにゾンビの肉体が路面に叩きつけられた。
 砂袋を叩きつけたような音が連続して響く。音そのものが質量を持ったかのように二人を追い立てた。
 跳び蹴りをするようにバイクにまたがる。
「出シテ出シテ!」
「わかってるわよお!」
 ぶるぅぅんとエンジンが振動した。そのまま路面に円上のタイヤ跡を残しバイクは旋回する。その技法をボビーは見たことがあった。昔の映画だ。マッドマックスターンといったか。実際にできる人間を見たのはこれが初めてだった。
 マスターがおかまでなければ惚れている。それほど素晴らしい操作テクニックだった。
 急発進したバイクの尻を撫でるように肉塊が倒れ込む。が、すぐにそれらは視界の中から消え去った。肉の奔流から逃げ切れたのだ。

「ヤタ! 逃ゲレタヨオ!」
「ええ! それじゃあ次は……」
「目指セモノホン銃器店、ダネ!」
 マスターはこくりと頷き、バイクのハンドルを捻った。
 モノホン銃器店ではなく、行きつけのオカマバーに向かうために。
 もちろんそんなことをボビーが知る由もない。
 行きつけのオカマバーにはいろいろと面白い玩具があった。多趣味な同胞もいる。どうせ歌舞伎町から出るのはまだまだ先の話になるだろう。それまではボビーと慰めあえばいいではないか。
 もちろん彼は嫌がるに違いない。しかしそんなこと問題ではない。先ほど背中をさするふりをして、あんなものやこんなものが混合された薬を打ち込んでおいた。
 はやくも効き目がでてきたのか、ボビーはマスターの背にもたれ掛かるように寝息をたてていた。二人乗りの最中に居眠りなど、危険ここに極まれりだがしょうがない。
「さあ、急ぐわよお……」
 すでに日が昇っている。だが、歌舞伎町の、マスターの夜はこれから始まるのだ。

   完

テーマ : ゲーム動画
ジャンル : ゲーム

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No title

はじめまして、いつも楽しませてもらってます。
コソリと生放送を見ていたモノですが、
あのカオスな設定がここまで読めるモノになっていることにビックリ!
これぞソンビ愛によるものですね。
最終、怖いのはゾンビよりマスターでしたが・・・。
とりあえず、この先ナマコと聞いたら例の物を思い出すこと確実そうで、ちょとばかり遠い目になりました。

これからも、楽しみにしてます!

No title

執筆お疲れ様です、ぞんちょ先生。
なかなか面白い仕上がりになりましたねw

生放送直後に自分でもストーリー考えてみようと思ったけど最初の2行で詰みました。
私のような一般人には真似できませんね。
今度はもう少しまともな意見でまとまったらいいですね~

今度の放送も楽しみにしてます!!
プロフィール

ぞんちょ

Author:ぞんちょ
Twitterもやっちょります。http://twitter.com/zomcho

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